映画『炎上』(1958)を観る

炎上

昭和33年の映画『炎上』を観る。三島由紀夫の小説『金閣寺』を映画化したものだが、諸般の事情により『金閣寺』が原作である旨は記されていても、金閣寺の名を映画で使うことができず、タイトルは『炎上』となり、劇中で炎上する建築は金閣ではなく驟閣〔しゅうかく〕となった。

監督は市川崑、脚本は長谷部慶治と市川崑夫人の和田夏十市川崑監督の映画は、夫人の和田夏十さんが亡くなられてからは少々面白みに欠ける。

主役の溝口吾市役は、時代劇のスターだった市川雷蔵市川雷蔵というと、十本以上も作られたニヒル眠狂四郎のイメージがあるかもしれない。彼にちょんまげではなく坊主頭、しかも白塗りではなく素顔で、そのうえ吃音症、ひらたく言うと「どもり」の放火犯を演じさせることは、かなりの逆風があったようだが、結果は概して好評で、時代劇スターでは終わらない役者の存在を発揮した作品。

役者としてはこれからの、37歳の若さで亡くなったのは惜しまれる。

映画に出てくる驟閣が美しいのかあんまりよくわからない。驟閣はそのものよりも、溝口の父親への思慕と母親への抵抗、貧しい生活や吃音症からくる人間不信的なもの、世俗にまみれた宗教人たちといった浮世の清濁の中でもがき苦しむ青年の救いが、彼のもうところの美しい驟閣なんだろう。

モノクロ、シネスコの映像が主人公の心理をよく浮き上がらせている。モノクロ画面がお好みでない人もいるようだが、色彩情報がないと本質へすっと入ってゆけることがある。撮影は『羅生門』や『雨月物語』の宮川一夫。終盤の夜空にきらめきながら燃え上がる驟閣は美しかった。

 

炎上(1958)

〔監督〕市川崑 〔製作〕永田雅一 〔企画〕藤井浩明 〔原作〕三島由紀夫金閣寺』 〔脚本〕和田夏十、長谷部慶治 〔撮影〕宮川一夫 〔録音〕大角正夫 〔照明〕岡本健一 〔音楽〕黛敏郎 〔美術〕西岡善信 〔編集〕西田重雄 〔邦楽〕中本利生 〔助監督〕田中徳三

〔出演〕市川雷蔵(溝口吾市)、二世中村鴈治郎(田山老師)仲代達矢(戸苅)新珠三千代(花の師匠)北林谷栄(吾市の母)、信欣三(副司)、浦路洋子(洋館の女)中村玉緒(五番町の女)、舟木洋一、香川良介、水原浩一、寺島雄作、上田寛、浜村純、志摩靖彦、伊達三郎

 

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